君が歯磨きをする場面を想像してみよう。歯磨きをするには、まず歯磨きというやることの"対象"を思い浮かべている必要がある。これは、君が「歯磨きをしよう」と考えている状態だ。そして君の頭の中にある対象としての歯磨きを、現実で"実行"することで歯磨きは完了する。
「歯磨きをしよう」と"対象"のことを考えているだけで、"実行"しなければ歯磨きは終わらない。歯磨きという"対象"がなければ、何も"実行"できない。どちらが欠けても歯は磨けない。このように、"対象"と"実行"の二つが揃ってはじめて、人は何かをすることができると私は考えた。
この分析をもとにすると、何かをやろうとするけどできない原因は、その"対象"か"実行"もしくは両方に問題があるからだと考えられる。それなら"対象"と"実行"の問題をそれぞれ明らかにして、一つ一つ解決していけばいい。
このように考え始めた数年前から、私は何かをやるとき、常にその"対象"と"実行"に注意を向けるようにした。それ以来、私が何かをやり損ねることはほとんどなくなった。だからこれから君に伝える方法も、"対象"と"実行"の二つの視点から説明していきたい。まずは"対象"からはじめよう。
"対象"に関する最初の問題は、その対象を認識できないことだろう。言い換えると、やることを忘れてしまうという話だ。何かやることがあったけど思い出せなくてモヤモヤしたり、学校に持って行くものがあったけど、それを持って行くこと自体を忘れたりしたことが私には何度もある。似たような経験が君にもあるんじゃないかな。
やることがわからなければ、やれない。そんなことは当たり前と思っているにもかかわらず、私たちは自分のやることがわからなくなる。人間の記憶力には限界があるので、忘れてしまうことは仕方がない。だから私は、何をやるかを自分で思い出すことを諦めた。
やることを書いておき、忘れたときはそれを見ることにしたんだ。私がこの方法を知ったのは、大学二年生のときだった。当時、私は経営コンサルタントという職業に憧れており、その具体的な仕事の内容を知るために、東京竹橋のコンサルタント事務所で働いていた。
私は、たくさん仕事をした。そしてやることが多すぎると、すべてを記憶しておくことはできないと実感した。困っている私に経営コンサルタントが教えてくれたのが、この「やることを書く」という解決策だ。
これだけで、仕事がラクになった。「どうしてやることを忘れちゃうんだろう…」と自分を責めることはなくなり、心が軽くなった。その効果は仕事だけに留まらず、学校や普段の生活にも及んだ。
たとえば英単語は自分で覚えていないと困る。単語帳を見ながら、英語を話すわけにはいかないからだ。でもやることは、その対象を思い出して実行できさえすればいい。そのためにカンニングペーパーを使ったって、何の問題もない。
それでは何にやることを書きつけたらいいだろうか。紙のメモ帳、手帳、ふせん、スマートフォン、パソコンなどの候補はたくさんある。私はスマートフォンをオススメする。いつでも持ち歩くスマートフォンでなら、どこでもやることをメモできるからだ。
もし君が手帳好きなら、スマートフォンと一緒に手帳も持ち歩いているかもしれない。でも手帳を使うには、バッグから手帳とペンを取り出して、手帳を開いて平らな場所に置き、片方の手で手帳が閉じないように押さえ、もう片方の手でペンを持って書く必要がある。
スマートフォンなら片手で入力できる。片手で操作できないほど大きいスマートフォンを使っていても、音声入力なら片手で済む。バッグの中でもスマートフォンはすぐに取り出せる場所にあるだろうから、手帳よりも速く、書く準備が整うだろう。スマートフォンは、メモにピッタリの道具なんだ。
スマートフォンを使えば、書きとめたことを見返すときも便利だ。インターネット上に情報を保存するアプリにメモすれば、スマートフォンに限らず、ネットに繋がっているパソコンやタブレットでもやることを確認できる。
書いたことを並び換えて編集できることも大きな利点だ。やることが多くなってくると、メモを整理しないと見づらくなる。手帳に書いたことの配置を変えるには、文字を消して書き直さないとならないが、アプリならタッチ操作で簡単に移動できる。
使うアプリは一つだけに決めて、やることはすべてそのアプリに入れよう。いろんなところにやることをメモしてしまうと、どこに何が書いてあるかわからなくなり、書いたことを探し出すのに時間がかかってしまう。スマートフォンを使ってはいけない学校では、すぐにメモできる手帳などにやることを一時的に書き、あとで必ずアプリに入力しよう。
今から最も大切なことを君に伝える。やることが出て来たら、すぐにその場で書きとめてほしい。一秒単位で記憶は薄れていく。メモする前に別のことをすると、それが終わって、いざ書き込もうとしたときには、すでに書く内容を忘れている。人間の記憶力なんてそんなものだ。
だから私も、いつも手元にあるスマートフォンを使って、やることが出て来た瞬間にメモをしている。パソコンを使っているときは、そのままパソコンで直接アプリに書く。紙しか持っていないときは紙に書き、後からアプリに写す。そうすれば、自分がやることを忘れてもアプリが覚えていてくれる。
この本を書いている2021年、私はTodoistというアプリをメモとして使っている。このアプリはパソコンやタブレットでも使え、編集も簡単にできる。今でも同じようなアプリはたくさんあり、君がこの本を読んでいる頃には、もっといいアプリが出ているかもしれない。
だけどアプリ選びにこだわって時間をかけないように注意してほしい。アプリのちょっとした機能の差が、やることの結果に影響することはない。だから最高のアプリを見つけようとして時間をかけるのはもったいない。
私が大学生の頃はスマートフォンがなかった。当時私は、どこでもメモをするために5センチぐらい大きさのノートとペンを、キーホルダーにかけて持ち歩いていた。ミニサイズだから当然、1ページに20文字ぐらいしか書けない。
そんな昔と比べれば、どんなアプリを使ったって効率はいい。先に書いたネット上でデータを共有できる機能を確認したら、あとは直感でアプリを決め、やることをその場で書きとめる生活をさっそくはじめよう。すぐに効果を実感できるはずだ。
これで"対象"の最初の問題は解決できた。次は"実行"だ。